Mash×Celes request
Breakin' through


第5話:信じたことを信じぬくこと、その先に僕らは

[Lock x Celes root]

 

 セリスからボロボロと零れた涙に、マッシュが眉を顰めながら穏やかに笑う。ぎゅっと両手で握られた藍色のバンダナ。
 それだけで、彼女の答えは判っている。唇を引き結びながら困ったように微笑んで、マッシュはセリスの頭を撫でた。子供にするように撫でたその手は、“いつもの”マッシュそのものだった。

「ずるかったな、ごめん」

 素直に下げられた頭に、セリスが顔を真っ赤にしたまま首を振る。一生懸命に首を振るので、それにマッシュが少し笑って「大丈夫だよ」と言った。

「それ以上に、ロックの事を好きなセリスが好きだから。今の言葉は本心だけど、忘れても忘れなくてもセリスの好きにしたらいい」

 マッシュの言葉は薄絹に包まれているが、はっきりとした拒絶だ。セリスは言葉を出さずに、その選択肢を選んでしまった。
 無意識に浮かぶロックの切なそうな微笑みとマッシュの困ったような微笑を重ねて、まだ涙が止まらない。なんとか必死に、彼女は言葉を紡ぎだす。

「まだ、死んだと決まって、ないから」

 目を見張るマッシュに、セリスが必死で弁明を続ける。ぐちゃぐちゃにかき乱された心は思考回路に侵食して、セリス自身も何を言葉にしているか解らない。
 それでも、彼女はこの感情を吐露しなければいけない気がして、言葉を紡ぎ続けた。涙声で饒舌に回らない舌に苛々しながらも必死で、セリスはマッシュに、自分自身に向かって告げる。

「両、手を…挙げるわけに、いかない。だから、最後、まで諦めたく、ないの」

 しゃくり上げつつも言葉を紡ぐセリスに、言わんとしている事を理解して、マッシュが穏やかな微笑みを浮かべたまま頷く。「そうだな」と同意の言葉を口にしたマッシュは、今まで通り兄のような響きを含んでいる。

「もう、頼ら、ないから…ごめんな、さい」

 「ごめんなさい」と繰り返すセリスにマッシュは「いいよ」と言うが、それでも首を振って「ごめんなさい」と繰り返す。無意識の内にマッシュに頼ってきたのだ。この状況を招いたのは自分だと後悔してもし足りない。
 いっそそのまま頼って、依存してしまえば楽になれた道を、セリスは手放した。これではもうマッシュに頼る事なんて出来ないと考えて余計涙が出そうになった時、頬を掻いたマッシュがようやく視線を少し逸らしてから横目でセリスを見た。

「あのな。確かに、俺は好きだって言ったけど。仲間としてのセリスも好きなんだ。だから、いままでみたいにマッシュお兄さんに頼りなさい。それは、仲間として――俺も、嬉しいから」

 マッシュが近付いて、セリスの背を撫でる。触れられてびくりと体を動かしたが、その仕草にはもうなんの他意も含まれてはいなかった。
 そうして―――思い切り、セリスは泣いた。

(こんな優しい人を、ごめんなさい)

 どうしても、セリスの心を覆うのは藍色の背中。何処か遠くを見詰めたロックの姿だけで―――。彼女は、信じぬくと決めたのだ。あの孤島を出たその日に。投げ出した筈の命を、救われたその日に。
 大地に座り込んで泣くセリスの隣で、マッシュはいつまでも穏やかに微笑んで慰め続けていた。


*******

「見ない内に、すっかり仲良くなったんだな」

 マッシュと双子の兄、エドガーが仲間として復帰してから彼はそんな感想を2人に洩らした。するとマッシュとセリスはきょとんとした目で見合わせて、内緒を共有する子供の如く笑い合う。
 そんな姿にエドガーが首を傾げると、セリスが人差し指を立ててエドガーの真似をした。

「いやね、エドガー。私達、元々仲良しですから」
「そうそう!」

 生まれた絆は、そう簡単に崩れるわけがない。それを証明するのだと、言葉に出さずに二人は誓い合ったのだ。
 エドガーが何かを察したように嘆息すると、「じゃあ、私がもう一度君を口説くのは有りなのかな?」と茶化す。そうして、今度は三人で笑い合う。
 手放した物は幾つもある。それでも、掛け替えの無いこの絆だけは―――2人に希望の光を照らし続けていくのだった。

Fin