(耳を塞ぎたい)
けれど聞こえてしまう声や衣擦れ音に、耳をそばだててしまうのは男の性か。
request[周囲が嫉妬するようなセリティナ]
Lily Lady's Sanctuary
最初に聞こえた言葉はこれが始まりだった。
「セリス、キスってどんな感じかしら」
風呂場の脱衣所前を通りかかった若き男性陣がティナの声に足を止めたのも致し方が無い話である。なんとか聞かない振りをしようとした男達の足を、セリスの言葉が動かなくさせた。
「ほら、ティナもしてみる?」
ちゅっと軽いリップ音。想像だけで顔が赤くなる若き男性達。女性達は軽いノリなのかもしれないが、その行為は聞くだけならエスカレートしていった。
「セリスの胸って私と全然違うわよね」
「やだ、そんな揉まれ方したらくすぐったいわ。大きくなる方法聴いたのだけど、やってみましょうか?」
「うん、私がんばるから教えて!」
一体、何を頑張るのか。
セリスに小さな胸を揉みしだかれるティナを想像した男三人、エドガー、セッツァー、ロックは顔を赤くしたり蒼くしたりしながら息を潜めていた。正確には、息を潜める以外の身動きがとれなかった。
「ほら、こうして後ろから……」
「あっ……、なんかくすぐったいわセリス」
「大丈夫、すぐ慣れるわ」
後ろからしている事なのか。もう彼らの妄想は止まらない。
羨ましいのはどちらだろう。どちらもだろうか。
むしろ尻や胸のラインを語り合って触りあいをしていると思われる現場に挟まりたい。そんな妄想が続く。
その日以来、脱衣所前でなくても静かにすれば聞こえる事がわかり、二度三度こんなことを繰り返したある日。今日もつい黙ってしまった男達。本を読む手は止まり、カードは何度も同じ場所を捲り、短剣の手入れを静かにそっと行ってしまう彼らを見た少女があきれたようすで近付いた。
リルムが男三人横を通り過ぎてぼそりと呟く。
「……下着の着け方講座らしいけど、何妄想してんの?」
あとでマッシュがその男三人の愚痴を聞く羽目になったのは言うまでも無い。
「それすら羨ましいって……修行が足らないぜ兄貴達」
あれれ、おしまい★