request No.[ケフティナ]

同工異曲


 
 魔導と魔法は似ているようで全く異なる相容れないものである。操りの輪を嵌めて、人形のようになったティナを見て、ケフカは狂気の色を孕んだ声を漏らした。

「所詮、魔法を持つ幻獣など、魔導のチカラに勝てるワケナイ!無イんデスヨォ?イーヒッヒッヒ…」

 笑い声は高く高く、操りの輪を嵌めたティナの耳を裂くように届く。
 操りの輪は鈍い色を反射させて、ケフカの視界に煌めきを残す。物は破壊する為にある、人間も破壊した時が一番綺麗だと豪語するケフカにとって、幻獣と人間のハーフであるティナは物を壊す為に存在する格好の玩具だった。

「ホラ、手を出してごらんなさい、人形」

 ケフカは、彼女をティナとは呼ばなかった。それでも、意思伝達機能が搭載された操りの輪を嵌めたティナは人形と呼ばれたのが自分だと理解して、命令に応じる。ゆっくりと腕が持ち上がって、ケフカの前にティナの白い右腕が出された。
 機械の照明がまばらに光る薄暗い室内で、ティナの右腕は白く光るように浮かび上がる。

「ホォラ、お前も、ただのお人形さんデスねぇ……?」

 焦点の合わないティナの頬が、高い音と共に叩かれた。命令には従ったはずなのに、ティナの頬はケフカの爪先で赤く切り裂かれる。
 文句などティナに有る筈もない。自我を堰き止められ、意思を持たない機械と同じだからだ。

「お前も……お前も、私と同じ、お人形サンデスヨネェ……?」

 ケフカの瞳が酷く歪な三日月に変わる。ティナからの答えはなく、右腕は上がったまま制止したままだ。
 下ろしていいという命令はまだ下されていない。だから、ティナは次の命令があるまでそのまま従った。
 それが気に入らなくて、ケフカは突然激昂する。

「クソッ、なんで、なんでコンナモノと同じだと言うんデスかぁ!!」

 何度も、何度もケフカはティナを顔や体を叩く。それでもティナは物も言わずに従った。
 ティナの物言わぬ瞳を睨み付けて、ケフカは息を切らす。

「抵抗、してみせ、ロ」
(どうして、)

 物言わぬ人形は倒れたまま体を動かさない。ケフカの脳裏に映るのは、叫んでもティナと同じように実験を繰り返された自分の姿。実験される事を諦め、受け入れた過去の自分が映るのだ。
 せめて、この少女と同じように自分の自我を堰き止められていれば、余りにも虚しくなるこの感情をどこかに捨てられたのに、そう彼は思った。

(同じじゃいけなかった?)

 命令に従って、ティナは立ち上がる。抵抗しろ、と命令が下ったから彼女は立ち上がっただけなのだ。応戦しろと命令は下っていない。
 こんな莫迦なものと自分が同じだと言う苦痛と、ティナの自我が堰き止められている事に対する羨望の妬みで、ケフカは奇声をあげる。

「――――――――……!」

 魔法と魔導は良く似ている。だが、決して相容れない部分が確かにあって、それはまるでこの二人を表しているかのようだ。
 それでも、本質は同じであるというのに、それに彼はまだ気付かない。
 ケフカの叫びは、誰にも聞こえない。物言わぬ翡翠色の人形は、黙して語らなかった。 

-fin-