流れていく時間の針がこれを真実だと教える。
運命に翻弄されるだけで、私は何を待っていたの

自分の事を知りもしないで、
誰かの事を知りもしないで、

だから、あの日、私は選んだ。

 

 

request No.[ティナ*bad apple!!]

運命の選択を<エドティナ>

 



『君自身に決めて欲しい』

 最初にこの言葉を聞いたのは、リターナー本部での出来事だったようにティナは思う。記憶を綺麗に破り取られた彼女の初めての選択肢。それはわからないままに選びようもなかった。運命に流されるままにティナは選択した。
 彼女自身の言葉は必要ない。ただ、頷きさえすればよかったのだ。
 それから、ひとつずつ、ひとつずつ。彼女は知っていった。それは、己が罪を知るための旅。自分が生まれてきた原罪を知る旅。

(私が、ころしてきた)

 何も感じずに繰り返した殺戮の後を見て彼女は思う。ひとつ知る度に、気だるい絶望をひとつ拾う。
 悲しむ事を知らなかった彼女が感情を覚えて考える。周りと違う自分の異質さをひしひしと感じる度に、悲しみを落とす。

(これ以上悲しみに溢れたら、わたしが、壊れる)

 だから、彼女は自分を守る為に戦闘時の表情を消す。原罪を知る度に強くなる思いと裏腹に、何を感じればいいか理解の範疇を超えてしまったティナは悲しむ事を止めなければ戦い続けられなかったのだ。
 破けた時間を取り戻す彼女の時間は、まるで悪夢を見ているかのよう。

(でも、夢じゃない)

 反射的に動き魔法を唱える彼女の姿には脊髄反射のような戦闘判断力しかなく、そこにティナの意思はない。

『私は、何も知らなかった』

 そんな言葉を理由に出来たのはその日までの出来事。
 そして、天地が裂けたあの日。
 彼女は最後の感情を知ることになる。モブリズに落とされてから全身に傷だらけのティナはゆらりと歩き回った。
 満身創意でも生きているティナを見て、子供達が駆け寄ってくる。泣き止まない子供達が必死に少しでも大人のティナを頼る。親が、兄弟が、隣人が殺された街の中で、大人たちが必死に守り通した子供達が「助けて」と泣き続ける。最初は、それが何故泣いているのかすら理解出来なかった。

(こんな私も、変われる?)
 
 知らない誰かを守りたいと思う想いは、知らない誰かを殺した自分にも出来るのか、彼女はずっと迷い続けてきた。
 迷い続けて、知る事に必死になって、彼女は彼らと再会したのだ。国を守り続けてきた男はこう言った。

「私も自分のしてきた一挙一動で、人を殺し、人民を守った。それは君と同じ罪にはなりえないのかな」

 ごくり、とティナが唾を飲む。今のティナならばその言葉の意味が解る。エドガーという男は間違いなく賢王だろう。それは、乱世を生きるこの世界では殺戮者の一人であるという事。

「……私は、生まれてきた事が罪。知らない事が、罪。でも、この子達には生まれてきた事を罪だと思ってほしくない」
「自分を知らない、誰かを知らない。じゃあ、君は何を知りたい。……誰を、守りたい?」

 あの時と同じようにエドガーは突き放す言い方でティナを考えさせる。あの時のように混乱したままの少女ではない、もう考えるべき要因を全て知った人間なのだ。もう、あの破かれた記憶を取り戻す悪夢の時間ではない。
 そして、もう一度彼からこの言葉を聞く。

「俺たちは、ティナに来て欲しい。誰の未来を守るかは、―――“君自身が決めてくれ”」

 手を伸ばす彼らに、ティナは手を伸ばす。このモブリズで子供達を守るだけなら、いつか一人きりの自分は潰えてしまうかもしれない。だが、彼女は知ることを選んだから。

「もし変われるのなら」

 彼の手を取って、ティナは目を閉じた。
 自分を黒く塗りつぶしてでも、子供達の未来を白にする。

 

-fin-